押立の家
東京都府中市に建つこの家はご夫婦とお子様の為につくられた。この地は二人にとっては地元でなければ、職場が近い訳でもない。その地を二人が選んだのには理由がある。二人の人生を共に豊かにしている先輩、仲間がいたからだ。先輩、仲間がこの地に家を購入した事をきっかけに、二人もこの地に移り住むことを決意し、私たちとの土地探しは始まった。二人が選んだ場所は多摩川が近くに流れる住宅街にある。この住宅街で二人が望んだのは勿論、先輩や仲間との豊かな時間を過ごす事ができる住まいである。二人に共通していたのは、仲間と外で食事ができるスペースがある事。各々好きな場所で仕事ができる事。そして二人の好きなブランドの家具が似合う家にする事であった。そんな要望に加えてご主人は、ご自身の友人が訪れた際に気兼ねなく、桃太郎電鉄を楽しめる、ご自身のコレクションも楽しめる秘密基地的な空間を望まれていた。お二人の要望を形にする為に私たちがまず考えたのは、建物の配置とインナーバルコニーのゾーニングである。この敷地は二面道路に設置していて、一方は車が入って来ることがほとんどない通路であった。こちらの道路の先には別の道路からもアクセス可能な駐車場があり、建物が少ないために開放感もある。そんな条件から私たちはそちらの道路に面したバルコニーを計画提案をした。バルコニーはリビングへとつながり、リビングはダイニング、キッチン、奥様の書斎兼用のフリースパースとリンクしている。リビングとつながるバルコニーを計画する時、その面に壁をできればつくりたくない。そう考える瞬間が多くある。しかし、住まいはそこで暮らす人の安全を担保する必要があり、その要素のひとつに耐震性能があげられる。木造住宅の場合、耐震性能を決めるのは壁の存在である。その為、バルコニーに面して全ての壁を取り除くことができない状況が度々生まれる。今回の住宅もそのうちのひとつだ。でもどうせつくるのであれば、否定的な壁よりも肯定的な壁の方が良い。壁は人に落ち着きをもたらしてくれる。そんな自論が私にはある。そんな自論を活かし、外部に面したインナーバルコニーに落ち着きをもたらす壁を配置した。壁を配置する事で、同じひとつのバルコニーの中でも、開放的な場所とこもり感のある場所が生まれる。人は一生を通じて様々な感情を抱く。その様々な感情に寄り添う居場所が、住まいには必要だと私は考えている。そんな事を考えた計画により、住宅街であっても、気の合う仲間と心置きなく外で食事ができるバスコにーのある住まいがまたひとつ、ここに完成した。
- 用途
- 住宅
- 概要
- 新築
- 面積
- 敷地107㎡ 延床面積80㎡
- 場所
- 東京都
- 完成
- 2021年5月
- 設計
- 前田工務店
- 施工
- 前田工務店