東小磯の家
大磯の海を一望できるこの家は、ご夫婦二人のためにつくられた。敷地は大磯の駅から坂を15分程登った斜面地にある。道のりは細く途中、車はカーブを曲がりきれず、スイッチバックで坂を登る。駅から家まで登り坂がある敷地を購入する事は、避ける人は多い。しかしこの敷地のお施主様は、そんな登り坂を上がったところに位置するこの変形地を購入した。それはこの敷地から見る眺望に惚れ込んだからであり、利便性の良い家を手に入れるという事よりも、景色の良い場所に暮らしたいという想いが、勝っていたからであると思う。住まいは人の心を豊かにする場所であって欲しいと常に願っているが、景色はそんな居場所に重要な役割を持つ。利便性も良く景色の良い開放感のある敷地がベストであるが、そんな敷地はほぼ無い。この家は利便性よりも心の豊かさを求め形になったプロジェクトである。そんな敷地にお施主様が求めたのは、もちろんその景色を活かした家にする事。それを実現する為に先ずは、建物の配置、ボリュームの検討から設計は始まった。計画する上で考えなくてはならなかった事は、この敷地の形状である。この敷地には平らな場所がない。全てが斜面地となっている為、その斜面地に対してどのように建物を配置するか、その為の基礎をどのようにするかが課題となった。擁壁をつくって平らな宅地をつくってから建物を計画する。斜面地に合わせて複数のレベルの基礎をつくってそこに建物をスキップさせながら構成をしていく。様々な案が検討されたが、問題になったのは、この敷地までの道のりである。道が狭いうえにいくつものカーブがあり、大きな車が入って来れない。使用するコンクリートの量が増えると、小さな車で何度も往復することになるため、費用がかさんでしまう。それらを回避するために考えられたのが、複数のRC柱を立て、その上に建物を載せるという手法である。基礎を柱状にする事で、使用するコンクリートの量を減らす事にした。同時に、この敷地は景色が良いが、景色を望みたい方角には木が茂っており、1階からの景色は期待が出来なかったが、基礎を柱状にする事で建物配置高さを上げる事が可能になった。建物配置高さを上げることで、通常であれば2階から眺めるはずだった景色が1階からの景色となり、屋上から眺める事が出来そうな景色が2階メインルームからの景色とする事ができた。大きな空と海、それらを眺めながら、自然の豊かさを視覚と心で感じながら過ごせる住まいがここに完成した。
- 用途
- 住宅
- 概要
- 新築
- 面積
- 敷地153㎡ 延床面積73㎡
- 場所
- 神奈川県
- 完成
- 2019年11月
- 設計
- 前田工務店
- 施工
- 前田工務店