ジェイアールノムコウ
二人のイメージに寄り添う空間を形にする為に、私たちが辿り着いたコンセプトは、今あるものを最大限活かしきる家。この家には古民家を解体して移築して建てられた建物である事から、その使用されている部材も魅力的なもので包まれていた。その魅力を最大限に活かしきる事を考え、計画を進めた。活かすと決めたのは、建物の骨格を形作っている構造材、懐かしい雰囲気と人の心をどこか豊かにしてくれる木製建具。そしてこの真鶴にある恵まれた気候だった。既存の平家の室内には天井が貼られていた。その天井を剥がすことで、この住宅の魅力である古民家から移築された構造材が姿を表すのではないかと予測。予測は的中し、室内を見上げるとそこには美しい経年美を兼ね備えた構造材が、空間にダイナミックさと落ち着きを私たちに与えてくれる結果となった。天井高が上がった事でできた空間のつながりをより豊かにするために、既存和室の上部に新たな部屋ロフトを設置。ロフトの高さをある程度確保する為に、既存の和室床は他の部屋よりも掘り下げた。掘り下げた事により、元々和室にあった既存の掃き出し窓は腰窓へと変化した。新しくできた和室に腰を下ろし、メイン空間を眺めると大地に設置されたテントの中にいる時と似た感覚を味わう事ができた。古い建具を活かすというコンセプトは浴室の入り口にも採用した。古いものを残す時、私たちが注意をするのは、新しく取り入れる材料が、もともとある材料に対して違和感が出ないようにすること。キッチンや床材など新たに取り入れた材料もあるが、いつも以上にそれらを違和感をつくらないように意識した。使えるものを活かしきるのコンセプトは別のところにも活かされている。例えば玄関の床は洗面所で解体した床材を使用して作られた。完成した空間もさる事ながらこの住まいの魅力が最大化したのは、二人が暮らし始めてからだ。私がこの家を訪ねるたびに、家具の配置や置かれているものが少しづつ変化をしていく。そこに存在しているものの中には古いものだけではなく、新しいものも少しばかりある。でもそこに違和感は全くない。新しい、古いという分かりやすい基準を超えた、二人の視点が持つ魅力的な感性がこの家の中にある物と物をつなげている。昨日12月中旬に訪ねた時には、薪ストーブのすぐ目の前に暖炉が設置され、その背後にはどこかで不要になったデスクが置かれ、上には子供の古いおもちゃとMac bookが置かれていた。キッチンには料理途中の大根、アトリエには子供の作った線路が広がり、庭には海で拾ってきたという謎のフラックが刺さっていた。玄関の外にはご主人の趣味であるスケボーをするためのランプが設置され、入り口には真鶴に住むアーティストに制作をしてもらったという表札が取り付けられていた。庭にもともと生えていたレモンの木には大きなレモンがゴロゴロと実をつけている。このレモンがとにかく美味い。ハイボールに入れると止まらない。ご主人はこのレモンをお店のある世田谷に持っていくと1個200円でみんな喜んでくれると目を輝かせる。この住まい作りを通じて私は、物の価値とは何か。人生の豊かさとは何か。そんな事を考えさせてもらっている。真鶴に移住しようか。そんな事を私は今、真剣に考えている。二人はこの新たな地で、独自の視点で集めた古物。他の人が不要になり手放そうとしている魅力あるものの循環を試みようとしていた。真鶴の地で不要になったものを、それを必要としている人へと渡し、廃棄される寸前のものに新たな命を吹き込み、継承をしていくという取り組みだ。ちなみにこの説明は二人の言葉から私が感じた事であり、私の解釈が含まれる。そんな二人は今回新たに手にした家で、数ヶ月に一度不定期にて古物の販売を計画していた。またフォトグラファーである奥様は写真を撮影できるアトリエを希望された。この家は真鶴に建つ築30年程の平屋の改修である。湘南藤沢で暮らしていたご夫婦はご主人が都内にお店を持つジュエリーデザイナー、奥様はフリーランスで活動をするフォトグラファー。二人は自然豊かな地でスローで豊かな暮らしを求め真鶴への移住を決意した。二人が選んだ中古の平家住宅。この平家はどこかの古民家を解体し、その材料を使ってこの地に建てられた住宅であった。新しくピカピカしたものではなく、時間の経過と共に美しさを増していくものが好きな二人。二人の視点は誰でも気が付く事ができる経年美とは少し違う。他の人が目もくれないようなものも、二人の目に映るとそこに、そのもの自体に魂が宿る。そんな感性を視点を持っている。そんな感性にぴったりの中古平家を二人は手に入れる事ができた。
- 用途
- 住宅
- 概要
- リノベーション
- 面積
- 敷地㎡ 延床面積㎡
- 場所
- 神奈川県
- 完成
- 2020年10月
- 設計
- 前田工務店
- 施工
- 前田工務店