今井西町の家
この住宅は神奈川県川崎市の駅から商店街を抜けた住宅街に建つ。駅から敷地までは徒歩圏内で、敷地は元々ひとつの家が建っていた場所が、4つの区画に分割され販売をされていた。敷地は49㎡と狭小地で、この住宅以外の3区画には、この敷地を分譲した業者で建てられた1階に駐車場のある3階建ての住宅が建ち並ぶ。お施主様は図面を見て、どこにでもありそうな間取りに抵抗を感じ、前田工務店へ建築を依頼頂いた。お客様が気に入られたのは、前田工務店の“育てる家”その雰囲気とフレキシブルさ、そしてその考え方や性能の良さだ。また、この敷地は駅から近く移動は電車がメイン。車は使用しないとの事で建物のボリュームは3階建てではなく2階建ての住宅を希望された。求められたのは、外へ出たいわけでは無いけれど外を感じることができる空間。夜、お酒をゆっくりとおいしく飲めそうな空間。在宅で仕事ができるスペース。ご主人様の趣味であるオーディオを楽しむことができる空間を求められた。建築可能な面積が限られていたため、建物内部はシンプルな構成とした。光の入りにくい1階に寝室と水回りを設け、リビング、ダイニング、キッチンは2階に配置した。1階の玄関ホールにはトイレが納められた階段が造作されている。玄関ホールより中に入ると収納のあるワンフロアーがあり、その先に水回りが続く。収納棚にはバンカーズボックスを並べ、中に入っているものはエクセルで管理するというまめなお施主様。収納棚の一部は机としての使用も可能で、ワークスペースとすることができる。当初収納スペースと寝室の間には壁のあるものをご提案したが、はじめは何もないフレキシブルな居場所をご希望ということで壁は排除された。少しうす暗くなり、少し閉鎖的になりそうな1階に視覚的な広がりを確保するため、水回りと階段室の壁は天井まで延ばさずに途中で止めることにした。このスリットからは寝室以外の場所から光も差し込み、寝室には囲まれた落ち着きと伸びやかな解放感が生まれた。前田工務店の事例を見て回っているとき、ご主人様がいつも腰をおろしていたのは階段室。「この階段落ち着くな~」とあまり聞きなれない台詞を数々の物件でおっしゃって頂いたマニアックなご主人様のために、階段室の踊り場にご主人様の酒飲みスペースを確保した。このスペースに腰をおろすとスリット越しに寝室、水回りの方向が見渡すことができるため、スペースとしては1㎡に満たないが、視覚的には、建築面積いっぱいの広がりを感じることができる。階段を上ると、ひだまりスペースに辿りつく。外を感じたいというご要望に応えるため、このスペースがつくられた。他のスペースとは差をつけるため、構造で居場所を仕切り、床材を他とはべつのものにした。たくさんの光を集めるこの場所はリビングとの間のカーテンを閉じると外部と距離を置くことができ、カーテンを開けると外部と繋がるような感覚を得ることができる。お引き渡し後、お施主様からとても気持ちの良い毎日を送れているという嬉しいお言葉とともに、ご主人様の趣味であるオーディオの音が素晴らしく良い、このスピーカ―のために建てられた家のようだとの声を頂けた。スピーカーはお施主様の手作りである。音が良いのは家ではなくスピーカーのお陰だと思う。利便性を考え購入した駅近くの狭小地に、心地の良い別荘のような空気の流れる住宅がまたひとつ産声をあげた。
- 用途
- 住宅
- 概要
- 新築
- 面積
- 敷地面積49.61㎡
延床面積59.42㎡ - 場所
- 神奈川県川崎市
- 完成
- 2018年8月
- 設計
- 前田工務店
- 施工
- 前田工務店
- 写真
- 山内紀人