谷戸の家
東京都町田市の郊外に建つこの家は、造園業を営むご主人とお花屋さんを営む奥様、そしてご長男の3人の家族のために建てられた。この敷地は北側と南側に高低差があり、南側は敷地よりも5mほど下がっており、北面は敷地と高低差が無くつながっている。南東側には町田市の管理する緑の多い公園が望める恵まれた環境となっており、ご夫婦はその景色と環境を気に入り、この土地の購入を決断された。また建坪率は30%となり、近隣の住宅同士は通常の住宅街よりもゆとりを持って建てられていることで、家と家の間には、程よい「間」がうまれ、どの家もその環境を楽しみ立ち並んでいるように見える。そんな敷地でご夫婦が望まれたのは、長年愛着をもって暮らせる、シンプルで心地の良い家。家族がゆるやかにつながり、それぞれの時間を楽しめる大らかな家を求めた。一方でご夫婦は、造園の実験ができるような庭スペースを設けたいとの要望に対して、家ではそんなに植物を感じなくても良いという、一見すると相反するような要望もあった。またご夫婦は素材について、古材は好きだけれど、はじめから完成された古材を使用するよりも、自分達と共に古材へと変化をしていく方が良いので、はじめは新材できれいに仕上げを望んだ。ご夫婦の要望を形にするため、まずはボリュームの検討を行った。先にも述べたようにこの敷地は南東に向かって緑園が広がり、近隣も程よい間隔で建ち並び、町には「間」がうまれている。一方で、ここはあくまでも住宅街、「間」の先には当然ながら、近隣の住宅が目に入る。極力、近隣住居ではなく、恵まれた緑園を一望できるようにと考えた結果、建物を3つのボリュームに分け、メインのボリュームを緑園に向けて置き、残り2つのボリュームは敷地と平行に並べた。そうすることで、外形は「大の字」のような形状となった。その特殊な形状にする事で、この町並みにある建物の「間」がこの住宅単体でもうまれ、その「間」には様々な性格の庭がうまれた。同時に室内には、部屋を分断するような壁はなく、空間は上下左右に緩やかにつながっていき、室内にもつながり感とはなれ感という程よい「間」がうまれた。性格の異なる複数の「庭」と「間」。自宅の庭造りについてご主人はいろいろな実験をしたいと言っていた。性格の異なる複数の庭が、ここに住むご家族のためだけでなく、この程よい「間」のある町並みにとけこみ、この住宅が風景の一部となるような、暮らしている人にとっても、地域の人にとっても心地の良い住まいと育ち、数十年が経過したころ、古材のもつ独特な味わい深さのある住宅へと育って行くことを楽しみにしている。
- 用途
- 住宅
- 概要
- 新築
- 面積
- 敷地面積169.77㎡ 延床面積79.05㎡
- 場所
- 東京都町田市
- 完成
- 2019年7月
- 設計
- 前田工務店
- 協力
- 成島建築設計+アーキノロヂオ
- 施工
- 前田工務店
- 写真
- 山内紀人