清川の家
神奈川県郊外、自然豊かな清川の地に建つこの家は奥様のご実家の隣に建てられた。小さな道路を挟んでご実家とこの敷地は隣接する。土地の面積は約100坪。東側に国道が走るが交通量はそれほど多くはない。道路の向こうには自然豊かな山々が広がる。西側にご実家、南面には緑といったとても恵まれた環境である。この地で自分達の理想を叶えることのできる工務店をいくつか見て、私達の事を見つけて頂いた。求められたのは、心地の良い毎日を過ごせる人の集まるおおらかな家。見た目の好みは線が綺麗で木も好きだけれど重たくなり過ぎない繊細なイメージを好まれた。外観はシンプルな平屋のような佇まいを求められた。打ち合わせ中何度も出てきたのは、外とつながる心地の良い暮らし。外と室内が一体となり、様々な人が各々好きな場所で自由に好きな時間を過ごす。どこにいても外とつながる心地よさを感じる居場所の多い住まいを望まれている印象を受けた。特に印象に残っているのは奥様の暮らしのイメージ像だ。キッチンに立ち子供とお菓子を作っていると、外では近所の子供たちが庭を公園のように使い遊んでいる。ママ友も散歩がてらに気軽に立ち寄り、いつの間にかいなくなっている「今日あの子来てたんだ〜」そんないつ誰が訪れたのかも気にせずに、立ち寄りたい人がこの家を訪れ、自由に心地の良い時間を過ごす事ができる。そんなイメージを共有頂いた。夜は心地の良いお気に入りの居場所で本を読み、時にはミシンをたたきながら自分の時間を過ごしたいと奥様。外で鳴く虫の音を聞きながら、気持ちの良い場所で美味しいものを食べながらビールを飲みたいとご主人。ご主人は基本キッチンには立たないが唐揚げはご主人が担当する。そんなお二人のご要望を満たす住まいに難しさはなかった。それは二人が求められているものは常に私たちが家づくりのコンセプトとしているものであり、敷地も贅沢な条件に包まれていた。一方でこれも常に意識している事ではあるが、外とつながる開放感を求める時、窓が多過ぎてしまい開放感があり過ぎると家の中は落ち着かなくなってしまう。開放感だけでは人は落ち着かない。そこには守られ感が必要だ。守られる開放感と、放たれる開放感。その両立を意識しながら設計を進めた。1階は外とつながるリビング。2階は子供リビングと子供室、寝室、水回り、クローゼットを設けた。お子様はまだ小さいが、初めから一人で寝る習慣を身につけたいとのご要望があり少し特殊な子供室を提案させて頂いた。子供室の中に1mほど上がったところに将来ベッドとなる床を造作し、まだ小さいうちはその高さ90センチ程のベッドの下で寝てもらうという提案だ。成長してからちょうど良い大きさの子供室は、まだ小さいうちは大き過ぎて怖がってしまうのではないかと考えたからだ。造作ベッドの下にカーテンを吊るしてその中がお子様の寝室となるように計画をした。子供室と廊下の区切りを小さい頃と成長した時で変化するように提案をした。小さい頃はベッドしたが自分の部屋となり、他の部分は廊下の幅を広げて確保した子供リビングとつながり、将来は入り口に扉をつけて個室を作る。そうする事で小さい頃に必要なお子様の寝室は程よい大きさとなり、子供リビングスペースは廊下とつながり大きくなる。大人だけではなく、お子様も自分の気分で好きな居場所を探して過ごす事ができる。そんな2階を目指した。でもこの提案は最後まであまり理解をしてもらえずに半ば強引に?決行をした。お二人の思い描いている暮らしにはぴったりハマるはずで、ご理解をいただけていないのはそんな空間にこれまでお二人が出会った事がなく、イメージができないからだけだと考えたからだ。そんな私達の勝手な想いも優しく包み込んでくれる二人の寝室からは、窓から大きな月を眺めながら本を読めるように設計をした。竣工してからお二人より写真が届いた。届いたのは庭がほぼ公園と化した素敵な画像。お父様の手作りブランで遊ぶお子様。それを眺める奥様のお母様。素敵な写真だった。お二人が引っ越しをしてからまだ私はこの家に行けていない。2階の子供室の使われ方も気になるので、今度テントを持って遊びに行こうと思う。
- 用途
- 住宅
- 概要
- 新築
- 面積
- 敷地305㎡ 延床面積79㎡
- 場所
- 神奈川県
- 完成
- 2021年1月
- 設計
- 前田工務店
- 施工
- 前田工務店